やっとチケットを買えた。QRコードも表示された。あとは改札を通るだけ。
そう思って改札にスマホをかざした。反応しない。もう一回。反応しない。電車まであと2分。後ろに人が並んでいる。
このとき、後ろから声をかけられた。
QRコードをかざす|反応しない
チケットを買えた安心感で、僕らは改札に向かった。
SJのアプリに表示されたQRコード。これをかざせば通れるはず。
改札機にスマホをかざす。
ピッ。
……ならない。
もう一回。
反応しない。
角度を変えてみる。近づけてみる。離してみる。
何も起きない。
電車まであと2分|後ろに人が並んでいる
焦った。
電車の発車時刻は7:29。今は7:27。
あと2分。
後ろを振り返る。3人くらい並んでいる。全員こっちを見ている。
妻も不安そうな顔をしている。
このとき僕の頭の中
- なんで反応しないの?
- 買い方間違えた?
- このQRコード、偽物?
- 後ろの人、イライラしてる?
- 電車行っちゃう…
もう一度スマホをかざす。
反応しない。
手が震えてきた。
後ろから声をかけられた
そのとき、後ろから声がした。
「Try scanning it there.」
え?
振り返ると、後ろに並んでいた男性が、改札機の別の場所を指差していた。
見ると、QRコードをかざす場所が2つあった。
僕がかざしていたのは、ICカード用のタッチ部分。
QRコード用のスキャナーは、その横にあった。

下のスキャナーにかざす|通れた
男性が指差した場所に、スマホをかざす。
ピッ。
ゲートが開いた。
「Thank you!」
振り返って言った。男性は軽く頷いて、自分のカードをタッチして通っていった。
妻も同じ場所にかざして、通れた。
時計を見る。7:28。
電車まであと1分。
走った。
ホームに駆け込む|間に合った
階段を駆け上がる。ホームが見えた。
電車がいる。まだドアが開いている。
飛び乗った。
数秒後、ドアが閉まった。
間に合った。
妻と顔を見合わせる。2人とも息が上がっている。
「やばかったね…」
「あの人が教えてくれなかったら、乗れなかった」
電車が動き出した。窓の外に、空港の建物が流れていく。
やっと、ストックホルムへ向かう電車に乗れた。

「Try scanning it there」が聞き取れた理由
電車の中で、さっきのことを振り返った。
あの人が言った「Try scanning it there」。
僕は、聞き取れた。
文法的に完璧に理解したわけじゃない。でも、「scan」と「there」が聞こえて、指差している方向を見た。それで意味が分かった。
なぜ聞き取れたのか
1. 単語レベルで拾えた
「scan」「there」だけで十分だった。全文を完璧に聞き取る必要はなかった。
2. ジェスチャーがあった
指差してくれたから、言葉と動作で意味が補完された。
3. 英語を聞くことに抵抗がなかった
キクタンで毎日英語を聞いていたから、「英語が耳に入ってくる」ことに慣れていた。
これが、TOEIC学習の効果だった。
点数はまだ600点に届いていない。でも、毎日キクタンで英語を聞いていたおかげで、「英語を聞くこと」への抵抗感がなくなっていた。
聞き取れなくても、怖くない。
単語だけ拾えれば、なんとかなる。
それを、この瞬間に実感した。
「Thank you」しか言えなかったけど
あの男性に、もっとちゃんとお礼を言いたかった。
「You saved me」とか「I really appreciate it」とか。
でも、咄嗟に出てきたのは「Thank you」だけだった。
それでも、伝わった。
男性は軽く頷いて、何事もなかったように通り過ぎていった。
前に海外旅行したときは、英語を話す気すらなかった。
全部Google翻訳。スマホの画面を見せて、相手に読んでもらう。それで乗り切れたから、英語を使う必要がなかった。
でも今回は違った。
「Try scanning it there」が聞こえて、「Thank you」が出た。
完璧じゃない。でも、英語で対応しようとしている自分がいた。
これが、TOEIC学習1ヶ月半の変化なのかもしれない。
スウェーデンの人は、優しい。
困っている外国人を見たら、さりげなく助けてくれる。
大げさに褒めたりしない。ただ、必要なことを教えて、去っていく。
この旅で何度も経験することになる、スウェーデン人の優しさ。
その最初の体験が、この改札だった。
40分後、ストックホルム中央駅に到着
電車は空港を出て、森の中を走っていく。
窓の外は、まだ薄暗い。11月のスウェーデン。朝8時前でも、空はグレーだ。
でも、電車の中は暖かい。席に座って、やっと落ち着いた。
入国審査で「Eat Meatballs」と答えて、券売機を探して30分さまよって、QRコードが反応しなくて焦って。
まだ空港を出ただけなのに、もうこんなに疲れている。
でも、なんとかなっている。
40分後、電車はストックホルム中央駅に到着した。
ホームに降りる。大きな駅だ。
次は、ホテルにチェックイン。
また、英語を使う場面が来る。
でも、さっきの体験で少し自信がついた。
「全部聞き取れなくても、単語を拾えばなんとかなる」
それが分かっただけで、次の一歩が軽くなった。
この体験で気づいたこと
- 全部聞き取れなくても、「scan」「there」だけで動けた
- キクタンで毎日英語を聞いてたから、英語への抵抗感がなかった
- 点数が上がる前でも、「耳の慣れ」は効果が出ていた
次話予告:第4話「Where are you from?と初めて聞き返せた日」
ストックホルム中央駅に着いた僕らは、ホテルに向かった。
チェックインは、また英語。
でも、それは想定内だった。
想定外だったのは、ホテルのスタッフから「Where are you from?」と聞かれたこと。
そして、僕がそれに答えた後、初めて「聞き返す」ことができたこと。
「And you?」
たった2語。でも、それが言えた瞬間、何かが変わった。
シリーズ記事
- 第1話:入国審査で「Eat Meatballs」と答えた朝
- 第2話:券売機のない国で、最初の混乱が始まる
- 第3話:QRコードが反応しない、あと2分で電車が来る(この記事)
- 第4話:Where are you from?と初めて聞き返せた日(近日公開)
- 第5話:ミートボールをなめてた(近日公開)
この記事は、今年11月の北欧&ドイツ旅行のうち、ストックホルム滞在(2泊)の実体験をもとに執筆した。TOEIC学習を始めて1ヶ月半後の出来事。
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